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「ね、シンちゃん。これ、あげる」
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ミサトさんはそう言いながら大きな紙袋を差し出してきた。
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「え・・・何ですか?これ。」
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「浴衣よー♪2着入ってるから。渚くんとデートでもしてらっしゃいな」
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強引に紙袋を渡してくるので、僕は受け取らざるをえ得なかった。
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「遠慮しないでー。頑張ってね!」
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何を頑張るんですか。何を。
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そういえば、明日。僕が昔住んでた家の近くの花火大会があったかな?
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調べてみると、やはり明日のようだ。
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懐かしいな・・・じゃあ、カヲル君を誘って行ってみようかな///
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玄関のほうで物音がする。どうやらカヲル君が帰ってきたみたいだ。
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「おかえり、カヲル君」
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僕が声をかけると、カヲル君はにっこり微笑むと僕のほっぺにちゅっと軽くキス。
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「・・・わわっ///」
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「ただいま、シンジ君」
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うーわー・・・も、誰も見ていないとはいえ恥ずかしすぎる。
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カヲル君は照れないのかな???
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僕が真っ赤になりながら考えていると、カヲル君は置いてあった紙袋に視線を落とした。
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「なに?これ」
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「あ、ミサトさんがくれたんだ。浴衣だって。2着入ってるって」
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「葛城三佐が・・・?」
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「うん。で、デートでもしてらっしゃいって・・・」
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僕はまた赤くなりながら続けた。
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「でさ、僕が昔住んでた町で花火大会があるんだ。明日、一緒に行かない?電車で30分くらいだから」
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「へぇ・・・そうなんだ。君と花火か・・・いいね。楽しみだな」
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「じゃ、決まりね」
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「・・・・ところで。この浴衣、よく見た?」
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「へっ?」
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「1着、女物だよ。これ」
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「ええぇぇーーー!?」
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よく見ると、髪飾りと巾着まで揃っている。何考えてるの!ミサトさん!
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「・・・・ミサトさんに返してくるよ・・・」
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「え?せっかくもらったのに。着て行こうよ」
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「え。カヲル君が着てくれるの?」
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「そんなワケない。君が着てよ。さぞかし美人になるだろうね・・・」
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そう言うとカヲル君はニヤリと笑った。
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「やだ。ゼッタイやだ!」
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「少し離れてるところなんだろ?誰も知ってる人いないだろうし・・・手、繋いで歩けるよ?」
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「・・・・・・・」
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・・・・う。不覚にも”手を繋いで”のところでグラっときた自分が情けない・・・
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「僕は一緒に行きたいな。ね、行こうよ」
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・・・そのカヲル君の表情に弱いんだよ、僕。お願いされると叶えてあげたくなっちゃうんだ。
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その後のね、嬉しそうな君の笑顔が大好きなんだ。
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「・・・・うん。仕方ないなぁ・・・」
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ぽりぽりと頭をかきながらちらっとカヲル君を見てみる。
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「・・・ありがとう。シンジ君」
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ほらね。やっぱり。カヲル君に甘すぎるかな・・・僕。
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承諾してみたものの、やっぱりちょっとヘコむ。
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女装かぁ・・・まぁ、スカートなんかよりはマシか。基本的に作りは男物と大差ないんだしっ。
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無理矢理自分を納得させてみた。
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突然、ガチャリとドアが開いてカヲル君が入ってきた。
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「どうだい?シンジ君。ちゃんと着れ・・・・っ!」
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「うわぁっ!カヲル君っ まだココロの準備が出来・・・っ!?・・・・」
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気が付くとカヲル君に抱きしめられていた。
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「・・・かわいい。なんか連れて歩いて他の人に見せるのもったいないな」
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「そんなこと思うの、カヲル君だけだよ」
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僕は苦笑いしながら言った。
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「君はまたそんなこと言って・・・・まぁいいや。行こうか」
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「ね。ホントにヘンじゃない?大丈夫かな・・・」
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なんか、いざ出掛けるとなると急に不安が襲ってきた。
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「あらー♪シンちゃんカワイイ!似合ってるぅ!」
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「み、ミサトさん!?なんでここに?」
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「ん?渚くんに駅まで送るように頼まれたんだけど?」
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「君はその格好で駅まで歩いていくつもりだったのかい?知り合いもたくさんいるのに」
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「あっ・・・・」
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さすがカヲル君・・・手回しいいなぁ。
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「んじゃ、出発ぅ♪」
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・・・・なんでそんなに嬉しそうなの・・・・ミサトさん・・・
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電車に乗り込むとわりと乗客が多く、混んでいた。
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「ほら、こっち。シンジ君」
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カヲル君が小さな声で僕を窓際に誘導して、僕をガードするように壁になってくれる。
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「ありがと、カヲル君・・・」
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ふと気付いた。近くにいた女の子がカヲル君を見てる。
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ちょっと顔を赤らめてる・・・カヲル君、カッコイイもんね・・・
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そういえば、改めてカヲル君を見てみると、男物の浴衣を着てすっごく絵になってる。
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なんか僕まで赤くなっちゃう////
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電車がガタンと大きく揺れる。咄嗟にカヲル君の腕が僕の腰に回された。
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「ちょ、ちょっと・・・カヲル君っ」
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「いいから。着くまでガマンして」
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そう言ってぴったりとくっついてくる。うわぁ・・・は、恥ずかしっ///
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というかヘンな気分になってくる。僕は必死になって他の事を考えてみる。
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カヲル君のイタズラな唇が僕の耳元をかすめた。
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「なに、考えてるの?」
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小さな声で囁いてくる。僕の体は眩暈がするほどドキドキしてる。
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「ふふ・・・かわいい」
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もう片方の腕で周りから隠すようにして僕の耳をぺろりと舐める。
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「ちょ・・・ヤメっ・・・」
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「ごめんごめん。これ以上したら僕もヤバい」
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こんな人込みの中でなんてこと言うの!カヲル君・・・
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電車の大きな音のせいでかき消されているようで、周りの人は聞こえてないみたいだ。良かった・・・
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ってか、もう早く着いちゃって!お願いだから!
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